人事労務の「作法」

企業の人事労務課題を使用者側の立場で解決します

054.人事制度の構築(15) コンピテンシー評価

今回は、人事評価の二つ目の要素である「行動」について考察します。

前回、行動要素については、コンピテンシーという概念で捉えるということを述べました。コンピテンシーとは、一般的には優れた成果を出す人に共通の行動特性という定義がされています。

これを能力成果主義的な人事制度を展開する上でのコンピテンシーに当てはめて考えると、経験により積み上げてきた保有能力を顕在化し、大きな成果を出すために現実的に行動として発揮された部分を指します。つまり、コンピテンシーとは、保有能力の一部でありながら、それが発揮されていれば、当然に成果が伴っているはずであることから、能力と成果を連結する役割を持っています。能力成果主義的な人事制度を展開する上で、欠かすことのできない要素といえます。コンピテンシーを評価要素に取り入れる事で、評価される社員の成果だけでなく、企業全体の成果向上にも繋がります。

コンピテンシー評価の具体的な項目は、能力評価の項目と同様に各企業で必要な行動特性を定義することになりますが、例えば以下のような項目が挙げられます。

①チームワーク

・組織目標を達成するために主体的に行動し、他者と連携、調整している

②リーダーシップ

・明確な目標を示し、メンバーの意見を集約し、具体的な指示を行っている

③情報収集

・正しい情報を収集、整理し、活用と共有化を図っている

④課題解決

・課題に対する解決策を立案し、積極的に解決に取り組んでいる

⑤人材育成

・自らの能力開発に取り組み、下位者に対して効果的な指導を行っている

コンプライアンス

・正しい倫理観を持って行動している

能力評価は保有する能力の程度を評価するのに対し、コンピテンシー評価では実際に成果につながる行動をしているかどうかを評価するため、定義が「○○している」となっているのが特徴です。上記の評価項目に対し、職能等級に応じた期待水準を定め、その到達度合いを評価するのがコンピテンシー評価です。

 

人事・労務ランキング社会保険労務士ランキング

053.退職決断前に考えてもらいたい事

各企業に新入社員が入って2週間が経過します。新入社員もそろそろ新しい環境に慣れてきたところではないでしょうか。

ところが、すでに退職したり、退職を考えている人が一定数存在するようです。しかも、最近では、本人が直接退職を申し出るのではなく、退職代行サービスを利用して退職交渉を行う人もいるようで、非常に驚きです。

もちろん理由は様々あるのでしょうし、労働契約の解除の申し出はいつでも行うことができるのですが、インターネットニュースなどを見ていると、どうやら聞いていた労働条件が実際とは違っていたという理由が多いようです。

労働条件については、一般的に求人票で公開し、会社説明会などでも質問が多い項目です。さらに事前に労働条件通知書を交付していれば、行き違いはそれほど起きないものですが、それが違っているのなら、大抵は企業側に問題があります。有りがちなのは、採用を担当する人事からは原則的な労働条件を伝えられていたが、実際に業務を行う現場では、そのような建前は通用しないこともありズレが生じるのでしょう。

ただし、このズレが、例えば給与の額が違うとか、労働時間や休日数が違うとかの重要な労働条件の相違であれば、会社に改善を申し出たり、叶わないならば監督官庁に相談するという方法もあります。

一方で、そのズレが、例えば残業は殆ど無いと聞いていたが、実際は10時間程度の残業があったとか、飛び込み営業はないと聞いていたが、実際は営業成績を上げるには飛び込み営業をせざるを得ないといった企業の人事権の範囲の相違なら、簡単に退職を決断する前に考えてもらいたい事があります。

それは、その企業の経営理念や行動指針、社会での存在意義を今一度確認する事です。もちろん入社前や入社後の研修で説明があったと思いますが、その企業の一員となった段階で改めて見つめ直した時に、経営理念や行動指針に共感でき、社会からの要請を実現することを自分事に考えられるのであれば、残業や飛び込み営業を拒絶するだけではなく、前向きに捉えられるのではないでしょうか。つまり、企業活動への参画意識を持つことによって、労働条件は自ずと付いてくるものです。

 

人事・労務ランキング社会保険労務士ランキング

052.人事制度の構築(14) 能力評価の手順

評価制度を構築する上で、何を評価の要素として取り入れるかは、制度の根幹に関わる部分です。

045の記事において、人事評価の要素は「能力」、「行動」、「成果」、「情意」にある事を述べました。今回はこれらの評価要素について考察します。

先ず、一つ目の評価要素である能力は、能力成果主義的な人事制度の展開においては、職務遂行能力(職能)のことを指します。職能等級ごとに必要な能力要件を定め、能力の伸長に合わせて職能等級の上昇(昇格)を行っていく仕組みです。ここでの能力の捉え方として、一つは経験によって積み上げてきた能力で、「保有能力」のことを指します。その能力を発揮する機会がなくとも、保有していれば要件を満たすことになります。

もう一つは、保有能力のうち実際に発揮された能力(「発揮能力」)で、成果につながる能力です。この発揮能力は、高い成果を出す人材に共通してみられる行動特性で、一般的には「コンピテンシー」と呼ばれます。つまり、二つ目の評価要素である行動については、能力の一部であるコンピテンシーという概念で組み立てます。コンピテンシーについては改めて解説します。

一つ目の評価要素である能力の評価においては、どのような保有能力を必要とするかについて、各企業で独自に要件を整理することになりますが、一般的に以下のような要件はいかがでしょうか。

①知識・技術

・業務上必要な知識や技術

②企画・提案力

・業務上のアイデアを企画し、提案する能力

③計画・実行力

・計画を立て進捗を管理し、効率的に最後までやり遂げる能力

④折衝・調整力

・社内外の関係者との折衝や調整を円滑に行い、取りまとめる能力

⑤指導・人材育成力

・メンバーの能力を見極め指導し、人材育成を行う能力

⑥コミュニケーション力

・自分の考えを相手に伝え、相手の考えも理解する能力

このような保有能力について、職能等級ごとに求める要件定義を行い、その要件を満たしているかどうかを評価することが、能力評価の手順の第一歩です。

 

人事・労務ランキング社会保険労務士ランキング

051.入社式直後の集合研修は重要です

明日4月1日には、多くの企業で入社式が行われることでしょう。コロナ禍から脱却し、以前のような対面での活気ある入社式を期待しています。

ところで、入社式の後はどのようなスケジュールを組んでいるでしょうか。一般的に入社式は1時間程度ですので、終了後は昼食会や先輩社員との懇談会を行うのも良いでしょう。ただし、「お客さん」としての扱いはここまでで、少なくとも次の日からは社員として必要な知識を身につけるための研修を行いましょう。

いきなり各部署に配属して、OJTを行う企業もあるかも知れませんが、受け入れ先によって指導の仕方や密度が違う恐れがありますので、先ずは人事が主体となって基本的な事項についての集合研修を行うのが効果的です。期間は長過ぎず短過ぎず、1週間程度が適当です。メニューは各企業で思考を凝らすのが良いですが、大筋として以下を目的とした内容にしましょう。

1.経営理念、方針の理解

これを無くしてその会社の一員になったとは言えません。

2.事業内容、各部署の役割の理解

会社事業が如何に社会に貢献しているか、その貢献をするために各部署がどのような役割を果たしているかを理解することは、従業員エンゲージメントを高めます。

3.規程、ルール等の理解

就業規則や各種システム等の運用ルールの理解は、コーポレートガバナンスを維持するために最低限必要な事項です。

4.同期生同士のコミュニケーション活性化

長期に亘る協力関係を構築できるよう、研修ゲームなどでお互いを知り合うきっかけを用意することも必要です。

以上のように、割と堅い話で座学が中心となりますが、このような体系立った研修を受けられる機会は、入社式直後以外にはなかなか用意できませんので、研修ゲームなども取り入れて集中力を維持できるように努めましょう。

職種によってはビジネスマナー研修を取り入れるのも良いですし、インストラクターを呼んでストレッチ体操を行うのも集中力維持には効果があります。

このようにして1週間の研修が終わる頃には、筆者の経験上、入社式直後に比べて見違えるほど成長した新入社員の姿を見ることができます。

 

人事・労務ランキング社会保険労務士ランキング

050.人事制度の構築(13) 人事評価にエラーは付きものです

人事評価は人が人を評価するものであり、評価者の感情や主観がどうしても入り込み、適切な評価が妨げられることがあります。このような評価の誤りを評価者エラーと呼びます。

代表的な評価者エラーは以下の通りです。

①ハロー効果……際立つ特徴に目を奪われ、実際よりも高い評価を付けてしまう現象。

②パスト・アンカリング・エラー……評価対象期間外の事象を誤って参照してしまう現象。

③期末誤差……直近の事象に引きずられて評価してしまう現象。

④中心化傾向……評価が標準的な中央に偏ってしまう現象。

⑤寛大化傾向……評価が甘く相対的に高い評価を付けてしまう現象。

⑥対比誤差……評価者自身の能力を基準に評価してしまう現象。

⑦逆算化傾向……初めから落とし所となる総合評価を念頭に置き、そこから逆算して評価を付けてしまう現象。

この中で、評価の目的を充分に理解していない評価者が最も陥りやすいのは、中心化傾向と寛大化傾向です。そこでは、上位の評価や下位の評価よりも、中央に偏った評価となります。特に、部下に悪い評価を付けることは、部下のモチベーションを低下させ、上司と部下の信頼関係や人間関係を悪化させる可能性があると考えがちで、敢えて悪い評価を避けてしまいます。その結果、中央からやや上位の評価に集中してしまうのです。

このような中心化傾向や寛大化傾向の評価者エラーを避けるには、日頃から評価される社員に関して、評価につながる事象を多く集めて記録し、その事象を評価基準に則して丁寧に評価することが重要です。また、前回論じた絶対評価相対評価の併用において、部長による二次評価の段階で、これらのエラーを是正する事が求められます。

冒頭に述べた通り、人事評価にはエラーが付きものです。ただし、人事評価の目的が人材育成にあることを前提に考えると、評価者エラーによって評価された結果が意味をなさないことは明白です。評価者エラーを少しでも出さないようにするためにも、評価者は評価される社員の日頃の働きぶりをよく観察し、公正に評価することがその社員の成長につながるということを理解したうえで評価を行いましょう。

 

人事・労務ランキング社会保険労務士ランキング

049.新卒の会社選びは慎重に

2025年春に大学を卒業する学生への企業説明会などの広報活動が、3月1日に解禁されました。

その一方で、すでに採用内定率は30%を超えているとの報道もされています。昨年夏のインターン参加後に、企業と学生が接触して、早い段階で採用内定を出しているのでしょう。今やインターン参加は採用への近道と言えます。

しかし、充分な企業研究を行なった上で入社を決めたのならまだしも、数日のインターンに参加しただけで、雰囲気が良かったからといった表面上の印象だけで入社を決めていないでしょうか。

入社してから「違うな」と感じれば転職すればいいじゃないか、という声が聞こえそうですが、中途採用を行う企業の人事の人間から見れば、学生時代にどのような理由で入社先を決めたのかは重要なポイントです。インターンに参加して雰囲気が良かったので入社したが、いざ仕事をしてみると若手には仕事を任せてもらえず雑用ばかりだったとか、ルールが細かく堅苦しいとか、入社前に見えていなかったことが理由で転職を考える人もいます。このような人から中途採用に応募があれば、人事は、この人は先を読んで考えることができないのではないかと判断し、不合格とするでしょう。

これから就職活動を行う学生の方には、新卒で入社する企業の選択は慎重に行なってもらいたいと考えています。もちろんインターンに参加し、実際の職場を体験することも重要ですが、インターン学生には得手して良い部分しか見せないので、勘違いしてしまいがちです。

最も効果的なのは、その会社の人に話を聞くことです。会社説明会などでは、予め会社側が説明したい事を話しますので、説明会の後や別の機会に人事に話を聞いてください。歳の近い先輩社員の方が親しみやすく感じるかも知れませんが、得手して不正確な情報だったり、自身の身の回りのことしか理解していなかったりします。その点人事は、会社全体の組織とそこに属する社員のこと、働く上での制度について深く理解していますので適任です。是非、遠慮せずに人事を活用してください。

 

人事・労務ランキング社会保険労務士ランキング

048.人事制度の構築(12) 相対評価か絶対評価か

評価ランク決定の方式として、相対評価とすべきか絶対評価とすべきかという選択の問題は常に悩むところでしょう。

相対評価とは、能力や成果について、他者との比較で評価ランクを決定する評価方式です。例えば、上位5%の人がSS、続く20%の人がS、続く50%の人がA、続く20%の人がB、最後の5%の人がCという具合に。

相対評価では、評価ランクの分布を予め設定しておく事で、昇給や賞与の人件費の予算管理がしやすくなります。しかし、所属する組織によっては、好成績な社員が多いか少ないかの違いで当人の評価が左右されることもあります。

一方絶対評価は、能力や成果の基準に対して、個人の達成レベルで評価ランクを決定する評価方式です。例えば、営業部門であれば目標売上に対して達成率が150%以上であればSS、120%以上150%未満はSという具合に。

絶対評価では、個人の頑張りに対して他の人に影響されずに評価に反映できるというメリットがあります。しかし、皆目標を達成すれば、低い評価を付ける要素が無くなり、結果的には人件費が高騰してきます。

日本企業の人事制度で能力主義が主流だった頃は、評価方式は相対評価が中心でした。能力の高さを売上のように客観的に数値で表すことは難しく、他人との比較で序列付けする相対評価が適していたのです。その後成果主義が台頭するにつれ、目標管理制度が盛んとなり、期首に設定した目標に対する達成度を評価軸とすることで、絶対評価に切り替えるケースが増えてきました。

しかし、絶対評価も万全ではありません。成果主義の弊害の一つである、高い目標を掲げなくなったことで、評価が中央に偏った結果となります。

このように、相対評価または絶対評価のいずれかに集約しても上手くいきません。つまりは、二択の問題ではなく両者を併用する事を考えましょう。

一般的に、評価は直属の上司である課長などが一次評価を行い、その後で部長などが二次評価を行う仕組みになっています。一人ひとりの頑張りを近くで見ている課長が一次評価を絶対評価で行い、二次評価で部長が全社的な視点で相対評価を行う流れが最も自然で公正な評価になると筆者は考えます。

 

人事・労務ランキング社会保険労務士ランキング