人事労務の「作法」

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021.定年後の待遇決定の悩み

今年7月20日に、定年後再雇用職員の待遇差を争った最高裁判決(名古屋自動車学校事件)が出ました。

判決では、定年後再雇用職員の基本給および賞与が、定年前の正規職員時の60%を下回り、旧労働契約法第20条違反であるとした一審、二審を破棄し、高裁に差し戻すという判断をしました。判決の詳細についてここでは触れませんが、企業としては定年後再雇用職員の待遇決定に悩むところではないでしょうか。

今回の判決に限らず、争いの的は旧労働契約法第20条の「有期労働契約者と無期労働契約者の労働条件の相違は、職務内容、配置転換の範囲、その他の事情を考慮して不合理であってはならない」という箇所です。この点について、2018年の長澤運輸事件の最高裁判決で、定年退職後に再雇用された者は長期間雇用することは予定されていないこと、定年退職前は無期雇用労働者としての賃金の支給を受けてきたこと、一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給が受けられることから、旧労働契約法第20条にいう「その他の事情」として考慮されることに該当するとされました。

一般的には定年時に部長や課長といった役職を退任することが多く、定年後は職務内容(権限や責任の範囲)が狭くなります。また、定年後に新たな業務に配置転換することは稀で、今まで培ってきた分野での後進の指導育成に力を入れるのではないでしょうか。この前提である以上は、旧労働契約法第20条の「不合理」な状態にはならないと思います。

定年後の賃金減については、世間一般には30%程度減額する企業が多く、労務慣行として定着しているものです。名古屋自動車学校事件の一審、二審ではその目安が40%減までとされましたが、これも明確な基準があるわけではありません。定年前が500万円の人と1000万円の人とでは当然に許容される幅も違ってきます。

定年後の待遇について争いが起きる原因は、賃金額の減額そのものよりも、定年前と職務の内容が変わっていないにもかかわらず賃金額が下がるところにあります。企業においては、人手不足といった事情があるにしろ、若手人材を活性化するためにも、定年を迎えた社員には、その経験を活かし、後進の指導育成に注力してもらうのが良いでしょう。

 

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