人事労務の「作法」

企業の人事労務課題を使用者側の立場で解決します

055.賃上げ機運に乗り遅れないで

連合による直近の集計では、今年の賃上げ率は定昇、ベースアップ込みで5.2%だった模様です。政府が目指す持続的かつ構造的な賃上げ機運が高まっています。

ただし、一旦賃上げを行うと、不況により賃下げの必要があっても簡単には実現できません。労働契約法の規制により、重要な労働条件である賃金を引き下げる場合には、労働者の同意が必要です。或いは、同意を得ないで就業規則を変更して賃金を引き下げるには、その就業規則の変更の必要性、労働者が受ける不利益の程度、労働組合との交渉状況等が合理的でなければなりません。賃上げは慎重に行い、業績に応じて決算賞与などで還元するのも一つの方法です。

しかしながら、ここまで賃上げ機運が高まれば、それに乗り遅れるのもリスクがあります。

政府は賃上げを実施する企業への税制優遇措置などの方策を展開しています。また、労働者の視点では、一時的な賞与の増額ではなかなか消費にはつながらない傾向にあります。やはり、恒常的な毎月の給与の伸びが実感でき、かつ今後もその期待が持てる状態となって初めて消費につながるのでしょう。

このような環境のなかでは、賃上げによる人件費のアップは、自社の商品やサービスの価格に転嫁することもそれほど違和感なく実施できます。消費の好循環により自社の業績向上にも期待できるのです。

更には、人材の採用においても、頑なに賃上げを見送っている企業は、新卒や中途採用ともに応募者からは敬遠されがちです。応募者はその企業の将来性を見込んで入社の判断を行いますので、賃上げ実績は応募者に対する有効なメッセージとなります。

一方、賃上げの裏で、早期・希望退職者の募集が年間1万人超のペースで進んでいることが民間の信用調査会社の調べで判明しました。企業は賃金上昇による固定費を抑制し、構造改革を促進させているようです。構造改革の促進には、事業領域の再編による成長分野への人材の投入と斜陽分野の余剰人員の削減は、切り離せない関係にあるのでしょう。

 

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