人事労務の「作法」

企業の人事労務課題を使用者側の立場で解決します

2023-01-01から1年間の記事一覧

038.年末年始に思うこと

2023年も残すところあと半日となりました。 人事労務を生業とする者にとって年末年始は、年末調整などの定例業務も一段落し、来年度の新卒社員の受け入れや、再来年度の新卒採用にはまだ時間がある、いわば1年で一番気が休まる時期です。 この時期に筆者は例…

037.人事制度の構築(6) 三つの等級制度

今回は三つの等級制度の詳細について解説します。 ①職能等級(或いは職能資格)制度 職務遂行能力の伸長段階によって等級区分する制度です。1960年代の高度経済成長期に普及し、現在でも広く採用されています。 職能等級制度では、等級と職務内容または役職…

036.人事制度の構築(5) 等級制度は人事制度の骨格

今回からは、人事制度を構成する要素の一つである等級制度についての見解を示します。 人事制度における等級とは、一定の要件で従業員を区分・序列化し、権限や責任、処遇などに結び付ける基準となるものです。そしてこの等級は、人事制度を構成するほかの要…

035.人事制度の構築(4) 能力主義と成果主義の併用

今回は、能力主義と成果主義それぞれの良い点を取り入れたハイブリッドな仕組みの人事制度の構成について論じます。 日本では最近急速にジョブ型雇用が普及し始めていますが、学校教育システムが従前のままだと、新卒一括採用で総合的な能力の向上を目指すメ…

034.管理職研修の勘所

管理職就任前、或いは就任直後の社員に対して、人事労務に関するマネジメント系の研修を行う事がよくあります。 今までプレイヤーとして第一線で活躍してきた人にとっては、マネージャーへの意識転換を図る非常に重要な研修です。特に営業や開発、技術部門の…

033.人事制度の構築(3) 能力主義と成果主義の比較

今回は能力主義と成果主義の違いを解説します。 能力主義とは、業務遂行上の能力を評価基準として処遇に反映する「人基準」の制度です。能力主義における能力とは、知識・経験などのインプットされた保有能力(職務遂行能力)のことを指します。 能力主義の…

032.人事制度の構築(2) 人事制度の変遷

人事制度構築の前提として「目指す人物像」が明確になれば、そこに至るまでの段階を何をもって等級付けし、どのような基準で評価し、何に対して賃金を支払うのかを考察します。人事制度が主に等級制度、評価制度、賃金制度から構成されていることから、この…

031.人事制度の構築(1)  初めの一歩

人事制度とは、広義には企業が経営目標を達成するために人材を管理する仕組みのことで、主に等級制度、評価制度、賃金制度の処遇決定の仕組みを包括した呼びかたです。そしてこれらは相互に関連し合い、一つの方針に基づいて構築されるものです。 人事制度を…

030.所定労働時間は何時間ですか?

労働時間に関し、法定労働時間と所定労働時間の違いを理解しているでしょうか。 法定労働時間とは、労働基準法32条で定める「1日8時間、1週40時間」の労働時間の上限のことをいいます。この時間を超える労働に関しては、時間外労働の割増賃金支払い義務が生…

029.無期労働契約への転換対策が必要です

労働契約法の改正により、2013年4月以降、有期労働契約が更新されて通算5年を超えたときに、労働者の申し込みによって無期労働契約に転換できるルールができました。 契約社員などの有期労働契約で働く人にとっては、雇止めの不安が少しでも解消する点では進…

028.自転車通勤には気を付けて

コロナ禍において、通勤ラッシュの密を避けるため、自転車通勤が注目されました。また、ちょうど健康志向やCO2削減の風潮とも相まって、一種のブームともなっています。 自転車通勤といえば今までも、最寄駅まで自転車でというケースはよくありましたが、最…

027.内定式の裏側

10月2日、オフィスビルのロビーで、リクルートスーツの若者を数多く見かけました。内定式に参加した学生でしょう。 10月初旬に内定式が実施されるのは、現行の就活ルールでは、内定解禁が10月1日からとなっているからです。実際には6月頃までにほとんどの採…

026.役職定年制の今昔

役職定年制を導入している企業の割合は約30%で、大企業ほどその割合は高くなっています。 役職定年制とは、部長や課長といった役職に就いている社員が、一般的には50歳代半ばの所定の年齢に達した時に、その役職を離れる制度をいいます。役職定年制が普及し…

025.社員旅行が復活しつつありますが

最近、社員旅行が復活しているようです。 社員旅行といえば、1990年代頃までは、どこの会社でも当たり前のように行われていました。当時は今のような○○トラベルと言った旅行サイトも無く、旅行代理店を介して集団で旅行することにより、割安な値段で旅行でき…

024.労働時間の意味を正しく理解しましょう

労使間でトラブルの原因となる事案の一つに、労働時間の問題があります。従業員から未払い残業代を遡って請求されたという話も時々聞かれます。 労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」であり、実際に労働している時間の他、指揮命…

023.褒めて伸ばすか、叱って伸ばすか

子供の教育の話ではありません。企業において若い世代を育成する手法として、一昔前のように「背中を見せる」だけでは通用しない時代です。部下の育成には、管理者が丁寧に指導する必要があります。 そもそも管理者の仕事は、ドラッカーが言うように人間の能…

022.採用時には身元保証書の提出を求めましょう

新規採用時、皆さんの会社では身元保証書の提出を求めていますでしょうか。 身元保証人となる人には、採用された人の人物保証の目的と会社に損害を与えたときの賠償責任を負ってもらう目的があります。よって、身元保証書に記載する事項は、保証人となる人の…

021.定年後の待遇決定の悩み

今年7月20日に、定年後再雇用職員の待遇差を争った最高裁判決(名古屋自動車学校事件)が出ました。 判決では、定年後再雇用職員の基本給および賞与が、定年前の正規職員時の60%を下回り、旧労働契約法第20条違反であるとした一審、二審を破棄し、高裁に差…

020.副業・兼業解禁の第一歩

社会の流れに沿って、副業・兼業を解禁しようとする企業にとって、一番気がかりなのは労働時間の通算問題ではないでしょうか。 労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算され、勤務先が2箇所の場合でも、「1日…

019.副業・兼業を認めますか?

2018年に厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定し、副業・兼業を推進する方針に転換したように思われます。副業・兼業を禁止した従来のモデル就業規則からも、その条項が削除されています。 日本企業は元々副業・兼業については消極的…

018.裁量労働制は最良の制度なのか

2024年4月より、裁量労働制に関する改正法が施行されます。 裁量労働制には、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制がありますが、適用される人数が多い専門業務型裁量労働制とは、「業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる…

017.「年金は何歳から受給するのが得か」議論の落とし穴

60歳を迎えるころから、世間では年金を何歳から受給するのが得かといった新聞や雑誌の記事に関心が集まるようです。 会社員の場合、60歳定年であっても65歳までの再雇用制度が用意されていることが多く、年金の繰り上げ受給を選択するケースは少なく、議論の…

016.即戦力中途採用の謎

日本の企業でも人材の流動化が進み、転職市場が活況を呈しています。 募集の条件としてどの企業でも即戦力を求めていますが、そもそも即戦力など市場に存在するのでしょうか。 ある企業で営業成績が優秀でも、顧客や販売する商品が違う別の企業で同じような…

015.フレックスタイム制のコアタイムについて考える

フレックスタイム制を導入する際、コアタイムを設けるかどうかは議論になるところです。 コアタイムを設けない所謂「スーパーフレックスタイム制」においては、清算期間内であらかじめ定められた時間働けば、何時に業務を開始し、何時に業務を終了しても良い…

014.社会保険労務士試験の思い出

今年度の社会保険労務士試験まで1ヶ月余りとなりました。 毎年この時期になると、筆者が受験した30年ほど前のことが思い出されます。当時は今ほど受験者が多くなく、試験の難易度もそれほどではなかった気がします。解答方式もマークシートではなく、記述式…

013.年次有給休暇取得していますか?

2019年4月より、年間10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年5日については使用者が時季を指定して付与することが義務化されました。 労働者にとっては気兼ねなく休めるのは喜ばしいことですが、使用者としては代替要員の確保などやり繰りに苦…

012.通勤災害に該当する?・しない?

会社に届け出ている通勤経路以外の経路で通勤途中に事故にあった場合、労災が適用されるかといった質問をよく受けます。大都市圏では公共交通機関の発達により、複数の鉄道路線を利用できることは珍しくありませんので、質問の意図は理解できます。 通勤災害…

011.時差出勤とフレックスタイム制を混同しないで

コロナ禍において、満員電車を避けるために時差出勤制度を導入する会社が増えたことでしょう。 時差出勤制度とは、満員電車を避ける目的だけでなく、育児や介護、その他個人のライフスタイルに合わせて、あらかじめ定められた出社・退社時刻のパターンを選べ…

010.ベースアップ行いますか?

賃上げを求める声が大きくなっています。 賃上げには昇給とベースアップがありますが、どうやらこの二つを混同している人もいます。 日本的雇用慣行の一つである年功賃金では、勤続により賃金は定期的に上昇するものであり、賃上げのうち昇給については日本…

009.ジョブ型雇用に切り替えますか?

戦後の高度経済成長を支えたのは、終身雇用、年功賃金、企業別組合を3種の神器とする、日本的雇用慣行にあると言われています。 日本的雇用慣行の元では、新卒一括採用を行い、OJTによってその会社でしか通用しない知識経験を積ませた、いわゆるゼネラリスト…