人事労務の「作法」

企業の人事労務課題を使用者側の立場で解決します

056.ジョブ型雇用の未来

先月、ジョブ型雇用で働く人に対する、別の職種への配置転換命令が可能かどうかを争った裁判で、労働者の同意がない状態での一方的な配置転換命令は違法とする最高裁判決が出ました。一審、二審では、職種限定の黙示による合意はあったが、配置転換命令は労働者を解雇する事を回避する目的で行われたものであり、合理的な理由があるとして適法とされていたものです。

従来の判例では、新卒採用で入社した職種を限定しないメンバーシップ型雇用の労働者に対する配置転換は、企業側に大幅に権限を与える内容になっていました。しかし、ジョブ型雇用の労働者には、労使対等の立場で労働契約を締結、変更すべきと謳う労働契約法の目的と、労働条件の変更には労使の合意が必要とする点を重視して違法であると判断されたものでしょう。

近年、特に大企業ではジョブ型雇用が普及しつつあります。本来は高度専門職に適用される雇用形態ですが、日本の伝統的な雇用形態であるメンバーシップ型雇用と明確な違いを示さず、耳障りの良さでジョブ型雇用を導入している企業には、衝撃的な判決だったでしょう。

ちょうど今年4月から、労働基準法施行規則改正により、すべての労働者に対し労働契約締結時と更新時に、労働条件を明示する際には、就業の場所及び従事する業務に関する事項に、その変更の範囲を含めて明示する事が義務付けられました。

従来は、雇入直後の就業の場所と業務内容を明記すれば良く、それらが明示されているからと言って明示された就業の場所や業務内容に限定する合意があったとは認められ難かったのですが、変更の範囲まで明示する事で、明示された内容の合意があった事を立証しやすくなります。

このことは、合意がない状態での一方的な配置転換はできない事を意味し、今回の事件のような事象は減っていくのでしょうが、一方で、限定した職種が事業領域の再編等で縮小し、整理解雇を行う場合に、解雇のハードルが下がる事を意味します。

今後、ジョブ型雇用が浸透するかどうかを左右する判決となるでしょう。

 

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