人事労務の「作法」

企業の人事労務課題を使用者側の立場で解決します

040.皆、パワハラ(らしきもの)に悩んでいます

パワハラ(らしきもの)の相談が増えています。

以前と違うのは、ターゲットとなっている人からではなく、それを見たり聞いたりしている周りの人からの相談が多いことです。

構図を整理します。

先ず、上司は非常に有能で部下の面倒見も良く、色々な事を教わった部下から見れば、尊敬する上司なのでしょう。ただ、少々クセがあり、熱心に指導するあまり、時に強引に従わせようとして言葉遣いが荒くなることがあります。

一方、ターゲットとなっている部下は、上司から見るとパフォーマンスが悪く、何度指示しても違った方向に進んでしまうところがあります。上司も手を焼いているのでしょう。つい、指導が厳しくなり、言葉遣いも荒くなります。ただし、人格を否定しているのではなく、単に熱心な指導が少し度が過ぎている程度です。指導されている部下も自分の至らない点を理解していて、改善しようとするのですが、それができない状態です。

ここまでであれば、双方ともパワハラの認識はなく、時々見られた光景です。ところが、最近はこの部下以外の他の部下から、この光景に対して「見ていられない」と言った相談が増えているのです。確かに、パワハラの定義には、「職場環境を悪化させる行為」も含まれますので、他の部下から見ればパワハラかも知れません。

この事を上司に伝えても、上司は頭を抱えてしまいます。上司は熱心に指導している意識であり、指導されている部下も指導の一環として捉えているのに、周りが不快に感じ、挙げ句の果てに他の部下は会社を辞めてしまうこともあります。これでは誰も幸せになりません。

しかし、このような状態を改善できるのは上司だけです。指導の仕方は上司によって違って良いのですが、指導される側も効果的な指導のされ方は人によって違います。皆の前で厳しく指導されてもそれが逆にパワーとなる人もいれば、萎縮してしまう人もいます。また、そのような場面を見ても他人事と思える人もいれば、自分が指導されているように感じる人もいます。

上司は一人ひとりの特性に合った指導を行うと同時に、周りがどう見ているかについても気配りする必要があるのです。

 

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039.人事制度の構築(7) 能力成果主義での等級制度

前回までの解説で、人事制度の枠組みとしては「能力成果主義」が最適であるとの指摘をしました。よって、今回はこの前提に基づく等級制度の在り方について考察します。

能力成果主義の下では、若手から中堅層までは能力の伸長を重視した能力主義を展開することが最善であり、そこでは職能等級制度が適当でしょう。

職能等級制度における職能とは職務遂行能力を指し、保有能力と発揮能力が評価の対象となります。新卒社員は発揮能力は小さく、保有能力が大部分を占めるところからスタートし、成果につながる発揮能力を高めていくことが能力開発の方向性です。

職能等級制度を導入する際のポイントは、目指す人物像を明確にした職能区分を行い、それぞれの区分に応じた「職能基準書(あるいは職能要件書)」を作成することです。職能基準書の作成においては、営業部門や開発部門、事務部門等の職種ごとに必要な能力項目を拾い出し、それぞれの職種ごとに定義する方法もありますが、運用が複雑にならないこと、また、職種間のレベルに統一性を持たせることを優先すると、能力項目は可能な限り共通化し、共通化できない能力項目のみ別に定義するのが良いと思います。

また、等級の段階は多すぎても少なすぎても運用が難しく、5段階程度が良いでしょう。段階が多すぎると、一つ上または一つ下の段階とのレベルの違いが明確にできず、職能基準書で「……ができる」と「……が概ねできる」といった表現が多発し、納得性が得られ難いものとなります。逆に段階が少なすぎると、上の段階とのレベル差が大きくなり、それは昇格まで時間がかかることを意味し、社員のモチベーションの維持に支障が出ます。

一方、管理職手前のベテラン層から管理職に至る層については、必要な能力はほぼ身に付けている前提で、その能力を使ってどれだけの成果を出すかに評価の基軸が移行することから、成果主義を重視した役割等級制度が適しています

役割等級制度においても職能等級と同様に役割基準書を作成することがポイントです。ここでも運用が複雑にならないようにするため、役割の定義は部門ごとに細かく設定せず、部門長の役割、部門内の管理職の役割といったように、役職に連動した定義が良いと思います。

役割の段階としても多すぎず、少なすぎず、管理職候補者、課長クラス、部長クラスの3段階程度でしょう。

次回は、複線型の人事制度について考察します。

 

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038.年末年始に思うこと

2023年も残すところあと半日となりました。

人事労務を生業とする者にとって年末年始は、年末調整などの定例業務も一段落し、来年度の新卒社員の受け入れや、再来年度の新卒採用にはまだ時間がある、いわば1年で一番気が休まる時期です。

この時期に筆者は例年、1年の反省を行い来年に向けての目標を立てるようにしています。

今年は5月にこのブログを立ち上げ、8ヶ月間何とか運営してきました。

来年はさらに進化発展させることを目標としていますので、お気軽にお立ち寄りいただければ幸いです。

来年もよろしくお願いいたします。

皆様のご健勝をお祈り申し上げます。

 

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037.人事制度の構築(6) 三つの等級制度

今回は三つの等級制度の詳細について解説します。 

①職能等級(或いは職能資格)制度

職務遂行能力の伸長段階によって等級区分する制度です。1960年代の高度経済成長期に普及し、現在でも広く採用されています。

職能等級制度では、等級と職務内容または役職が必ずしも一致しないため、処遇の大きな変更を伴わなくとも人事異動を柔軟に行うことができます。また、一定の年齢に達するとポスト不足が問題となりますが、職能等級制度では等級で処遇できるため、ポスト不足にも対応できます。

逆に、等級と職務内容が一致していない事で賃金と職務がバランスせず、また、ポスト不足問題が解消する反面、人件費が高騰します。

②職務等級制度

従事する職務の内容や難易度によって等級区分する制度です。成果主義を徹底する企業での導入が目立ちます。

職務等級制度では、職能等級制度では課題である職務と賃金のアンバランスが起きず、職務に見合う合理的な賃金となります。その結果、総額人件費を抑えることができます。

一方で、職務が変わらないと賃金が上がらないため、人事異動には対応し難く、組織が硬直化するというデメリットがあります。

③役割等級制度

与えられた役割の大きさによって等級区分する制度です。役割の定義は職務等級制度で行う職務分析ほど手間はかからず、比較的導入しやすい制度です。職務等級制度のデメリットを改善したような制度です。

役割等級制度では、職務等級制度と同様に役割と賃金がバランスし、総額人件費も抑えることができます。

一方で、役割の定義は職務の定義ほどは明確ではなく曖昧なため、社員の理解が得られ難い点がデメリットです。

三つの等級制度は以上のとおりですが、では、どの制度を導入すべきかについては、今までに示してきた人事制度の基本的なフレームを現した下図を参考にしてください。

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筆者の見解としては、職務等級制度が導入できるのは一部の大企業、もしくは若い社員が多い新興企業に限られると思います。大部分の中堅中小企業では、今でも日本的雇用慣行が色濃く残っていることから、等級制度としては職能等級制度を基本とし、評価の要素に能力と成果をバランス良く取り入れる事です。図の人基準から仕事基準に切り替わる「能力成果主義」あたりが、何れの制度の利点をも組み込む事ができるという点で最適でしょう。

この前提で次回以降、見解を展開します。

 

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036.人事制度の構築(5) 等級制度は人事制度の骨格

今回からは、人事制度を構成する要素の一つである等級制度についての見解を示します。

人事制度における等級とは、一定の要件で従業員を区分・序列化し、権限や責任、処遇などに結び付ける基準となるものです。そしてこの等級は、人事制度を構成するほかの要素(評価制度、賃金制度)に連動することから、人事制度の骨格を成す部分です。

等級によって従業員を区分・序列化することで、「目指す人物像」に近づくための段階やレベルが明確になり、人材育成に効果的です。また、その等級ごとに評価の基準や賃金額が定められますので、合理的な集団マネジメントが可能となると同時に、処遇に対する納得感が高まります。

このように等級制度は、単に人事制度面からのアプローチだけで組み立てるのではなく、人材育成や集団マネジメントといった経営戦略面からの観点を踏まえて組み立てることで、企業の従業員に対する明確な意思表示となりますので、自社に適した等級制度を設けましょう。

ところで、等級と同じように従業員を区分する基準として、「職群」というものがあります。職群とは等級よりも大きな区分であり、職群には企画的業務に従事する総合職群と定型的業務に従事する一般職群といった区分や、組織マネジメントを行うマネジメント職群と特定の専門分野のスペシャリストとなるスペシャリスト職群といった区分があります。

等級の下位段階から上位段階に移行する(一般的には昇格といいます)に伴い、各人の組織内における能力や成果の発揮の仕方には個人差が出ることから、予め職群という区分でコースを分け、それぞれのコースに応じて人材育成や集団マネジメントを行う仕組みです。このような制度は「複線型人事制度」と呼ばれ、等級制度に合わせて導入するのが良いと考えます。複線型人事制度については改めて論じます。

等級制度において従業員を区分・序列化する方法は、一般的に三つのパターンがあります。一つ目は「職能等級制度」、二つ目は「職務等級制度」、三つめは「役割等級制度」です。どの等級制度を採用するかは、前回までに論じた能力主義成果主義か、或いは人基準か仕事基準か等の考え方で、従業員を区分・序列化する基準をどこに置くかで決まります。

次回からは3つの等級制度について解説します。

 

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035.人事制度の構築(4) 能力主義と成果主義の併用

今回は、能力主義成果主義それぞれの良い点を取り入れたハイブリッドな仕組みの人事制度の構成について論じます。

日本では最近急速にジョブ型雇用が普及し始めていますが、学校教育システムが従前のままだと、新卒一括採用で総合的な能力の向上を目指すメンバーシップ型雇用が主流となります。現に、文科系の学部を卒業した大学生が、入社直後から役立つ業務知識を身に付けているかというと、そうではないでしょう。となると、20歳代のうちは能力の伸長を重視した能力主義が適しています。

一方、30歳代からは徐々に成果主義の要素を取り入れ、40歳代以降は成果を重視した制度へと切り替えます。つまり、新卒の段階からジョブ型雇用の下で成果主義を適用するのは無理があり、年齢や経験に応じて能力主義重視から、成果主義重視へとシフトさせていくのが良いと考えます。

但し、能力と成果は全く別物ではなく、相互に関連します。能力と成果を円で表すと、①の重なり合った部分が成果に結びついた能力です。②は成果に結び付かない能力、③は能力を超えた成果です。若い間は①のほか③よりも②を重視した評価を行います。逆に中堅からベテラン層は①と③を評価要素とします。

若いうちは当然成果の円は小さいですが、将来成果につながる能力の円を広げる事に注力します。中堅以降は能力の円よりも成果の円を広げ、しかもその円が能力の円と重なるようにする事です。③の能力を超えた成果は、運が作用することもあり、いつも成果がでるとは限らない事が難点です。

このように能力主義成果主義を併用する事で、どの世代にも目指す人物像が明確になり、そのための教育の方針も立てやすくなります。

優秀な人材が豊富な大企業や最先端の技術開発を行う企業などは、ジョブ型雇用が成り立つ環境にありますが、大部分の中小企業などは、人材の確保と育成が最重要課題です。そのような中小企業では、ジョブ型雇用ではなく従来からのメンバーシップ型雇用で、能力主義成果主義を併用した人事制度が適していると筆者は考えます。

次回以降は、人事制度を構成する等級制度、評価制度、賃金制度についての見解を展開します。

 

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034.管理職研修の勘所

管理職就任前、或いは就任直後の社員に対して、人事労務に関するマネジメント系の研修を行う事がよくあります。

今までプレイヤーとして第一線で活躍してきた人にとっては、マネージャーへの意識転換を図る非常に重要な研修です。特に営業や開発、技術部門の管理職には縁遠い内容でもありますが、部下のマネジメントを行う上では必ず直面する事項ですので、丁寧に分かりやすく説明するように心掛けています。

柱となるテーマは、労働法の知識と労務管理手法です。

労働法については、先ず労働基準法から、労働時間、休憩、休日、休暇、時間外・休日労働、割増賃金等の法規制を中心に解説します。その他、労働契約法からは、労働契約の基本ルールと無期労働契約への転換ルール、労働者派遣法からは、労働者派遣と請負の違い、労災保険法からは、過労死の労災認定基準と精神障害と労災認定、労働安全衛生法からは、健康診断受診義務と医師による面接指導義務、高年齢者雇用安定法からは、65歳までの雇用義務について簡単に解説します。

いずれも部下のマネジメントを行う上で必要な労働法の知識です。

労務管理手法については、何よりも労働時間管理について力を入れます。原則の労働時間の他、36協定とその特別条項の管理の必要性について解説します。労働時間の管理が不十分だと、割増賃金、長時間労働、過労死、精神障害、医師による面接指導といった労働法の問題につながります。

次にハラスメント、特にパワハラの防止について解説します。パワハラの定義にあるように、管理職には職場内の優位性がありますので、言動がパワハラと受け取られないような対応を身に付ける必要があります。

また、メンタルヘルス対策については、管理職によるラインケアの重要性と具体的な対応方法についてケーススタディも交えながら解説します。

最低限、以上の知識が管理職には必要ですが、その前に管理職の役割と責任について理解させる必要があります。

管理職は労働法上は経営者と一体の使用者の立場で、企業の健全な発展に導く役割が課せられています。それ故に、労働法違反が認められた場合には、刑事罰が適用されることもあることを理解してもらいましょう。

 

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